投稿者:(有)М&Y 竹谷 泰史(阪神支部所属)
私たち中小企業家同友会で何かにつけて取り上げられるテーマなのですが、「中小企業経営に経営理念とは何か、経営理念は必要か」という問いがあります。
理念経営の支援を生業としている立場からすると、この「経営理念は必要か?」という問い自体が存在することが考えられないのですが、実際以下のような会話が頻繁に交わされているようなのです。
「あなたの会社に経営理念はありますか?」
「え?そんなのないですけど必要なんですか?」
「そうですよ、経営理念を作らないとダメですよ」
「どうやって作るんですか?」
「うちで勉強会をやっているからいらっしゃい」
実はこの会話は双方が同じ勘違いしていて、本来噛み合うはずのない会話が何となく成り立ってしまっている状態なのです。
つまりおそらく双方が経営理念とは「なにか立派な言葉で書いてある崇高なもの」と捉えている勘違いなのではないかと思います。
※実際に兵庫県中小企業家同友会のメンバーが、どのような経営理念を掲げているかはこちらをご覧ください。
まず、「経営理念はありますか?」の質問の意味。
経営理念とは何か分かっている人が質問しているなら、これは「会社案内やホームページに記載するなど、なんらかの形で明文化してありますか?」という意味でなくてはなりません。
なぜなら「経営理念とはなぜその商売をするのかという目的」だから、本来経営理念のない会社などないからです。
だから文字通り「経営理念の有無」を聞いているなら、非常に失礼な質問ですね。「あなたは何かしらの想いを持って経営していますか?それとも何の目的意識も持たず経営しているのですか?」ということですから。
私はたいてい「あなたは何の為に経営するのですか?」と質問します。
それに答えられない経営者はいないと思うのです。
「いや、それは食べていく為です」と答える方もいらっしゃいます。それはそれで当然でしょう。
次に「なぜその商売で食べていくのですか?」と質問します。
他でもないあなたが、その商品・サービスを世に問う意義です。
ここは自分自身を深く掘り下げて言葉にしてほしいと思うところです。
それこそがあなたの「経営理念」なのです。
「生きるために食べよ、食べるために生きるな」
とはソクラテスの言葉だそうですが、私は
「経営する為に食べよ、食べる為に経営するな」
とお伝えしたいと思います。
次のやりとりの「経営理念を作る」というのもありがちな勘違いです。
経営理念は「きっと作るでも教わるでもなくて、気がつけばそこにあるもの」だからです。
経営理念を作るとは、正しくは「自分自身の想いを言葉にして確認し、共に追求していく同志を得る為にきちんと明文化しておく」ということなのです。
さて、経営理念とはどういうものか確認して頂けましたでしょうか。
「経営理念は必要ですか?」は愚問。
「何の為に他でもないあなたがその商品・サービスをもって自社の存在意義を世に問うのですか?」という質問への答えですから、きっとあるはずですし、しっかりと嘘偽りない言葉にしておくことが”必要”ですね。
「その経営理念はすばらしい」
「そんな経営理念ではダメだ」
などという不毛な議論が起きる経緯はまた別の機会にお話したいと思います。
先ほどから繰り返し「経営の目的」ということをお話しています。
これも頻繁に会話に出てくるテーマなのですが、「目的と手段」というのもをおさらいしておきたいと思います。
経営理念を目的として日々経営をしていくわけですが、「手段」というのはどういうものでしょうか。
誰が、なぜ、誰に、何を、どのように、提供するか。
これが商売とするならば、「なぜ」が目的であり、それ以外は手段なのです。
どのようなビジネスモデルを描き、どのような組織を作り、何をどのようにどんなお客様にお届けするのか……。
資金調達も仕入れも製造も販売も雇用も組織育成も……。
すべては手段です。
実は”経営そのもの”が手段なのです。
これは瞬時には納得されない方も中にはおられるかもしれませんが、目的たる経営理念を追求する手段が”経営”なのです。
時折”経営そのもの”が目的となっている方がおられます。
つまり自社の存続が目的となっているということです。
自社の存続は経営理念という目的追求の手段であることを忘れてはなりません。
今回のコロナ禍では、多くの経営者が緊急の資金の手当てをして自社の存続を再優先に考えたことでしょう。それはそれで大切なことです。なぜならあなたの商品・サービスを必要としてくれる方が必ずいるはずだからです。
もしそうではないならば、いかに資金繰りをしようとも、やがてあなたの会社は存続の危機を迎えるはずです。
今こそ、もう一度、自社の経営理念、すなわち「何の為に経営しているのか」という問いへの明確な答えを、自問自答し、社内外に共感を得られるか発信してみることはとても大切なことだと言えるでしょう。
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