東神戸支部 藤本秀俊(㈲神戸経営支援センター)
兵庫同友会人材育成委員会主催の新入社員フォローアップ研修では、入社間もない社員に「貴方はプロですか?」と呼びかけます。すると、ほとんどの人は「まだプロでは無い」という反応を示します。しかし、目線を変えて、「お客様の立場から考えるとどうなるでしょうか」と問うと、大事なことに気が付き始めます。
お客様は、素人製品やアマチュアのサービスに貴重なお金を支払いたいとは思いません。アマチュアとは、報酬を受け取らず、主に自己のために活動する人のことです。アマチュアとして趣味、スポーツ、芸術を楽しんだり、打ち込んだりします。一方、プロフェッショナルとは、その活動を通して報酬を受け取る人のことです。お客様の要求に応えられるように不断の努力が欠かせませんが、お客様からは、お金だけではなく、仕事へのやりがいや働き甲斐といった報酬を頂くことができます。
「貴方はプロですか?」という問い掛けは、言い換えれば、「貴方はプロとしての自覚を持って仕事に臨んでいますか?」ということなのです。
「自分は経験も浅く、能力が低いので、まだプロではない」と考える人がいるでしょう。しかし、プロの自覚を持つことに、経験、技術、資格・免許、学歴等は無関係です。プロになるためのハードルは高くありません。誰でもプロになれます。ただし、一流のプロになるためには更に努力も必要です。ただ、仕事で報酬を頂く限り、誰でもプロとしての自覚と行動が求められるのです。
プロと混同しがちな言葉に、スペシャリストとエキスパートがあります。
スペシャリストは、特定分野に詳しい人や特定の高度な技術を有している人のことです。エキスパートは、経験を積んで高度な技術などを習得した熟練者や熟達者のことです。アマチュアにもスペシャリストやエキスパートの人はいます。そして、プロでも練度が低い人もいます。
毎日会社に行って、永年働いていると、そのうちプロになれると思ったら大間違いです。年齢が上がっても、アマチュア意識の人はアマチュアのままです。だからこそ、まず、プロとしての自覚を持つことが重要になります。
プロの世界は階層になっており、どの階層にいるかで得られる報酬が変わります。
大谷翔平選手が活躍するMLBの下部には、マイナーリーグとして、3A、2A、1A、ルーキーリーグというように階層があり、その他にも独立リーグなどがあります。各球団とも、メジャー、マイナー合わせて抱える選手は約200人。メジャーリーグ登録選手は基本的に40人。試合に出られるのは通常は25人ですが、どの階層にいようと、皆プロ意識を持って日々の“仕事”に励んでいます。メジャーに昇格してからプロ意識を持つ選手はいません。
大相撲の世界も階層です。横綱、大関、関脇、小結、平幕、十両、幕下、三段目、序二段、序の口の各階層で報酬が異なります。
企業も同じです。新人からベテランまで、皆プロ社員です。会社に入ったときは、ドラフト4位でも、その後MLBで大活躍するイチロー選手のような人もいるでしょう。二軍や控え選手のような人もいることでしょう。それでも、プロはプロです。控え選手には控え選手としての仕事や役割があります。先発メンバーから外れて控えに回っても、一流の選手はプロとして、きっちり準備をしています。
あなたの会社には、何人のプロ社員がいるでしょうか。社員数が多くても素人集団では、お客様は満足しないでしょう。アマチュアの大オーケストラとプロの数名のジャズバンドでは、どちらの演奏にお金を支払いたくなるでしょうか。アマチュアの素人集団のような企業には、仕事を依頼したいとは思いません。
世の中には多数の無名のプロが仕事をしています。企業にはプロ社員がいるから、お客様から仕事を受けることができ、売上が上がり、給料を支払うことが可能になります。仮に、特別な技術が無くても、「挨拶のプロ」「おもてなしのプロ」「5Sのプロ」など、自分達がプロ意識を持って取り組んでいけば、必ずお客様に伝わるはずです。
生成AIに「10人のプロ社員がいる会社と100人の素人がいる会社では、どちらがお客様は満足しますか」と尋ねてみました。すると、少し時間をおいて次のような回答がありました。
『とても本質的な質問ですね。「10人のプロ社員」と「100人の素人」では、単純な人数の差ではなく、提供するサービスの質と一貫性、効率性が問われます。
結論としては、お客様の満足度が高いのは通常「10人のプロ社員」です。
理由①:質の高い対応が一貫して受けられる。→プロは状況に応じた柔軟な対応や提案ができるため、顧客は「期待以上」の体験を得やすい。
理由②:トラブル対応力が高い。→素人が多いと対応のばらつきが生まれやすく、逆に不満が蓄積されやすい。
理由③:プロは顧客の「本当のニーズ」をくみ取る力がある。→顧客満足は「言われたことをこなす」よりも「期待を上回る提案や気配り」で高まります。
ただし例外もあります。マニュアル化された単純作業で教育体制がしっかりしていれば、100人の素人でも一定の満足を得られることはあります(例:コールセンター、倉庫作業)。また、素人でも熱意や態度が丁寧であれば、短期的には高評価を得ることも可能です。』
生成AIも、「なかなか気の利いた回答をするな」という印象です。
企業の規模が小さくても、プロ社員がいれば、お客様は満足します。そして、お客様は、仕事のやりがい、働き甲斐という報酬を与えてくれます。プロ社員を増やすことは、中小企業経営者の責務と言えるのではないでしょうか。
新着記事
プロとは何か?アマチュアとの違いや、プロ意識の重要性を新入社員向け研修の視点から解説。小さな会社でも「プロ社員」がいれば顧客満足は得られる。